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自尊感情とは?アメリカ式教育に学ぶ、高めるためのヒント【前編】

自尊感情とは?アメリカ式教育に学ぶ、高めるためのヒント【前編】

「Self-esteem(自尊感情)」とは?

「Self-esteem(セルフエスティーム)」という言葉は、自尊心または自尊感情と訳され、自分の存在を尊重する気持ち、自分はあるがままで尊い人間だと自覚する、社会のなかで意義があると感じる心理状態を指します。他人からの評価ではなく、自分が自分をどう思うか、どう感じているかを指し、それは外に求めるものではなく、人に与える印象とも違います。

1965年、自尊感情研究の第一人者のモーリス・ローゼンバーグは、自尊感情に「very good(自分はとてもよい)」と「good enough(自分はこれでよい)」 の2つの異なる側面があると提唱し、後者の自尊感情の自己受容という部分を測るための自尊感情尺度アンケートを10項目から構成しました。このアンケートは多少の改善はありますが、今でも多くの研究で使用されています。


自尊感情尺度調査アンケート

自分自身のことを自ら考えることができ、自分を肯定的に捉えられる程度の自尊感情の高さは、他人と協調して社会を生き抜いたり人生の困難を乗り越えたりと、充実した人生を送るためには必要なものです。

昨今の日本の子どもの自尊感情は、世界中でも特に低いと言われており、その背景には、幼い頃の大人からの扱われ方と日本人独特の謙虚さを美徳とする文化的要因もあるとされています。

自尊感情の低さは社会的問題の引き金になりかねない

自尊感情が低いと、どうしてもネガティブ思考になりがちです。仕事や勉強、人間関係に苦手意識や不安感を抱いたり、低機能で仕事ができなかったりという状態に陥り、「失敗→自責の念→自尊感情が低いまま」という負のスパイラルが生まれます。

自尊感情が低い人の特徴としては、下記のような点が挙げられます。

○自分に自信がない
○自分や他人を否定的に捉える
○他人の言動を歪曲して受け取り、一喜一憂する
○コミュニケーション力が低く、人と上手につき合えない
○自分をよく責める
○失敗するのが嫌
○不安感が高い
○ネガティブ思考

自尊感情の低さは、引きこもりや社会に適応ができない状態や、自傷行為や自殺などの社会的問題を引き起こす一つの要因にもなっています。また、低学力、少年犯罪、薬物・ネット依存、10代での妊娠などを経験した子どもたちは、自尊心が低くなるとされています。

現在の日本では大人になっても自尊感情が低い人が多いため、それが子どもたちに伝わってしまい、歪みの連鎖が生まれています。その形はモンスターペアレントやヘリコプターペアレント、毒親などという形にもなって表面化してきます。

子どもの性格が敏感で真面目であるほど親からの影響を受けやすく、過度の期待や親が持つ不安、親同士の不仲などから、自尊感情が低下していく傾向にあります。

とくにスペシャルニーズ(発達障害)のお子さんの場合、親がそこに気づかず、または受け入れられずに、必要なケアをしないまま放置してしまうと、その子の自尊感情が低くなってしまうこともあります。

自尊感情を高めるには大人から尊重されることが大切

自尊感情を高く保つには、幼少期から思春期までの成長過程で親や先生など自分を囲むまわりの大人たちから尊重され、価値を認められたかどうかがポイントです。

何かを選ばなければいけない局面で、大人から信頼されて選択権が自分にあり、自分で責任を取ったうえで成功や失敗を経験してきたかどうかが重要となります。

自尊感情が高い人の特徴としては、下記のような点が挙げられます。

○情緒が安定し、自分の言動や行動に責任感がある。
○社会適応能力が高い
○他の子や先生とのトラブルが少ない
○社会規範を守る
○クラスのまとめ役であることが多く授業態度もよい
○失敗を恐れず、チャレンジできる
○プレッシャーや逆境に強い
○いじめに屈せず、他人の目を気にしない
○悪い仲間の誘いを断ることができ、イヤなことはイヤと言える

ただ、自尊感情はナルシズムと関連が深く、近年のアメリカではナルシストであるとともに自尊感情が高い子が目立ちます。自尊心が高いと自分に自信がありすぎるため、どうしても主張が強く負けず嫌いで、まわりの意見を聞かず、個人主義で自己愛が強くなりがちです。

一方で、こだわりの強さがあるため、ストイックに物事に向き合えれば成功体験を得られやすく、自尊心を保つこともできます。

そして、自尊感情と成績の相関関係は確かに存在しているようです。

アメリカでは、高校1年生で成績がよかった生徒は3年生の時点で自尊心が高かったのですが、1年生で自尊心が高かった生徒は3年生の時点で成績がよいといえなかったという調査もあります。成績が高いことが自尊心を高めたといえるかもしれません。

意識調査で自尊感情が低い日本の若者

平成29年度の内閣府の13歳から29歳の若者を対象にした「自分自身に満足しているかどうか」の意識調査では、米国人の87%が「そう思う、どちらかといえばそう思う」と答えたのに対し、日本人は約半分の45.1%しかありませんでした。韓国、イギリス、フランス、スウェーデン、ドイツなどの他国でも平均は80%近くでした。

「長所があると感じているか」という質問項目でもアメリカの91.2%が肯定的なのに対し、日本は62.3%という諸外国中で1番低い数値でした。自分の長所の有無と満足度はどの国も相関していると考えるのが自然であり、それに加えて、「自分の考えをはっきり相手に伝えられるか」「うまくいくかわからないことにも意欲的に取り組めるか」が満足感との相関が高いと言われています。

また、日本の特徴的な部分として、「自分は役に立たないと感じる」との負の相関も指摘されています。日本人も欧米人のように社会的な自尊感情をほどよく高めていくことが、これからは必要なのではないでしょうか。

では、どのように自尊心を高めていったらよいか、後編ではアメリカ人の子育てを通してお伝えしていきます。

後編はこちら

【参考URL】
平成29年度 子供・若者の意識に関する調査
平成30年度我が国と諸外国の若者の意識に関する調査
出典:日本の子どもの自尊感情はなぜ低いのか 古荘純一・著

著者プロフィール

世界35カ国に在住の200名以上のリサーチャー・ライターのネットワークをもち(2017年12月時点)、企業の海外での市場調査やプロモーションをサポートしている。

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