【連載1回目】STEM教育最新事情:プログラミング教育はなぜ必要なのか?~AI時代にどう育てる?アメリカ発STEM教育の最新事例と失敗から学ぶスマート子育て法~
2020年にプログラミング教育が小学校で必須化されることに先駆け、日本でもプログラミング教室の人気が高まっています。
プログラミング、レゴ、ロボット教室などは、「STEM教育」と呼ばれる学習法の中心に位置づけられており、いま、先進国のみならず、世界各国で注目されています。
連載の第1回目では、STEM教育とは何か。そして、いまなぜSTEM教育が世界で注目されているのを考えます。また、AI時代だからこそ気になる、STEM系の職種とその将来性についても、アメリカの統計をもとにご紹介します。
目次
STEM教育とは?
STEMとはScience, Technology, Engineering, Mathematics (科学・テクノロジー・工学・数学)の頭文字をとったもので、STEM教育とは、テクノロジー分野や理数工学系の知識とスキルを習得するための学習体系です。
STEM分野の仕事、STEM系の人材という使い方もされるように、以前は「理系」と呼ばれていたものを置き換かえる言葉として使われている場合も見られます。ただ、STEM教育が従来の理系教育と大きく異なるのは、先生から生徒へという一方通行の学習法や暗記を中心とした詰め込み式からの脱却を目指している点にあリます(1)。
STEM教育では、理系分野の知識やスキルを習得するためには、子どもたちの好奇心や疑問を学習テーマとして取り上げ、子どもたち自身がそれについて調べ、答えを導き出していくという主体的な体験型学習が不可欠であるとされているのです(2)。
なぜSTEM教育なのか?
STEM教育は、アメリカの国立科学財団(NSF)が90年代に理系教育の重要性を訴えたことに発する(3)のですが、世界的に注目される契機となったのは、2009年にオバマ大統領が行った「Education to Innovate (革新への教育(4))」キャンペーン開始を宣言するスピーチであったといわれています。
このキャンペーンでは、アメリカの次世代の繁栄のためにはSTEM教育が最重要課題であることが明言され、小中高へのSTEM教育投資、STEM教員の増員、STEM分野の学位取得者の増加などが教育戦略として掲げられることになりました(5)。
このような動きの背景には、テクノロジーや人工知能の発展に伴い、STEM人材の確保が国家の経済成長に不可欠になっているということ、また、STEM人材の需要の高まりに供給が追いついていないことがあります。
例えば、アメリカでは、2025年には約200万人以上のSTEM人材が不足すると予想されており、これによりアメリカのIT産業の成長が妨げられることになるともいわれています(6)。
STEM人材の不足は、イギリス(7)やドイツ(8)など他の先進諸国においても問題になっており、日本でも顕在化し始めています。
2017年に経済産業省が実施した調査(9)によれば、機械工学、電力、土木工学、ハード・ソフトプログラム系、食品科学の分野では、採用予定人数を下回る採用実績であったことが明らかになっており、今後、どのように理工系人材を強化していくのかが大きな課題となっています。
このように、STEM教育は国の経済成長や雇用問題とも密接にかかわっており、そのため、欧米をはじめとする先進国のみならず、アジア・南米諸国を含め、世界各国での導入が進んでいるのです。
STEM分野の仕事の将来性
STEM分野の仕事の需要が高いことは前述の通りですが、STEM分野が注目されているもうひとつの理由は、STEM分野の職種はほかと比較して高収入なことにあります。
アメリカでは、STEM分野の大学卒業生の平均年収は66,123ドル(720万)ですが、STEM以外の分野では52,299ドル(約570万)(10)となっており、大きな開きがあることがわかります。
プログラム教室やロボット教室の人気の背景には、こうしたSTEM分野の仕事の需要や収入の高さが知られるようになったことで、子どもにはSTEM分野の職業についてほしいと考える親が増えてきていることもあるのではないでしょうか?
しかしながら、近年では、このようなSTEM分野の安定性を過信するのは危険だと警鐘を鳴らす意見も出はじめています。その一つには、STEM分野といっても、物理学、化学、生物学、数学など多岐にわたっており、決してSTEM分野のすべての仕事の需要が高いわけではないことがあります。
下の表(11)で、STEM分野の需要を職業別に見てみると、アメリカで突出して高いのがコンピューター関連、次にエンジニアとなっていることがわかります。逆に、自然科学・物理科学・数学の分野では低くなっていていることも読み取れます。
ただ、生物学・物理学・数学などの基礎科学に関しては、キャリア前半の年収はコンピューター関連の仕事よりも低いものの、35歳以降は最も高くなっており、長期的に見ればこのような職種が安定していることもわかってきています(12)。
また、コンピューター関連の仕事に関しては、大学卒業時の知識やスキルは10年後にはもう役に立たなくなるケースが多く、そのスピードについていくことができない人も多いため、年齢が上がるにつれ、STEM分野の仕事から離れる人が増加していることも明らかになっています(13)。
STEM分野の教育や仕事への関心が高まりつつある日本ですが、ただプログラミング教室に通わせればすべてが解決するということではありません。親自身が、子どもがSTEM教育を受けることによりどのような道が開けるのか、何を目的に通わせるのか、指針をはっきりさせて見極めていくことが大切だといえるのではないでしょうか?
(1)https://www.lifewire.com/what-is-stem-4150175
(2)https://www.steampoweredfamily.com/education/what-is-stem/
(3)https://blog.stemscopes.com/stem-a-rebranded-idea-of-the-past
(4)https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/71119/1/03_shineha_25-36.pdf
(5)同上
(6)https://www2.staffingindustry.com/site/Editorial/Daily-News/Shortage-of-STEM-workers-at-crisis-level-say-20-in-survey-47144
(7)https://www.stem.org.uk/news-and-views/news/skills-shortage-costing-stem-sector-15bn
(8)https://www.handelsblatt.com/today/companies/stem-skills-germany-tech-worker-shortage-gets-worse/23695034.html?ticket=ST-2876527-alJT2GldMwdRh0eNvO9b-ap2
(9)https://www.meti.go.jp/press/2018/04/20180420005/20180420005-1.pdf
(10)https://www.burning-glass.com/research-project/stem/
(11)https://cs.calvin.edu/images/department/jobs/2022/
(12)https://finance.yahoo.com/news/stem-jobs-pays-much-long-142540588.html
(13)同上
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。