人種差別について、子どもにどう伝えていくべき?
アメリカで問題視されている、黒人差別問題。ニュースを見て疑問を持つ子も多く、どうやって説明するべきか、悩んでいる方もいるかもしれません。
そこで今回は、差別という難しい社会問題を、親として子どもにどう伝えていくのが望ましいのかを見ていきたいと思います。
目次
話題を避けていても、差別を防ぐことはできない
アメリカで黒人男性が警察官に殺害され、その後、世界中で人種差別に抗議するデモが広がっています。これに関するニュースをきっかけに、子どもに差別についてどう伝えるべきなのか考えた方も多いと思いのではないでしょうか。
「平等であるべき」「人を差別してはいけない」これはもちろん正論であり、子どもに伝えるべきことです。しかし、それで差別がなくなるほど、事が簡単でないことは、昨今の抗議デモの広がりを見れば明らかです。
大勢で訴えても、なくならない根深い差別の問題、親としてまず何ができるでしょうか。
私はここ20年ほど、海外での生活が続いていて、その間に4ヵ国の暮らしを経験しています。どの国でも、同じマンションに同じ人種だけが住んでいるということはありませんでした。普通に色々な国の人々が暮らしているのです。
日本は諸外国と比べると、まだまだ単一民族国家です。それもあり、人種差別はいけないことと強く認識していても、それが身の回りで起こっている感覚は薄く、それゆえ、なんとなく子どもたちにも伝える機会がなく、ここまで来ているというご家庭も多いと思います。
そういう点では、私たち日本人は、人種問題についての認識がまだまだと言えるかもしれません。外側から言うのはいくらでもできますが、自分に落とし込んだら、本当に偏見はないのか。お隣に異文化のご家族が暮らしていることを違和感なく捉えられるのか。
大人が中途半端な考えでは、子どもたちにいくら「平等であるべき」と伝えても、行動に矛盾が出て、うまく伝わりません。まずは自分の中の偏見と向き合うことは大事なことだと思います。
自分もそうだった、オランダ時代のある経験
そんな私も、以前、オランダに住んでいるときに、こんな経験をしました。娘が小学校低学年の頃だったと思います。ある日学校から戻ってくると、マンションのエレベーターの中にある鏡を見て、「なんかワタシの顔ってみんなより黄色っぽい」と言いました。
そこで私がとっさに思ったのは、「だれかに何か言われたのかも!」ということでした。自ら肌の色を気にしていたからこそ、こう思ったのです。
そのときは、多国籍の学校に身を置く娘のことを心の中では心配していたのでしょう。「誰かに言われたのかどうか」それを聞き出したい思いが一番先に出てきましたが、とりあえずはいったん飲み込み、「どうしてそう思ったの?」と訊いてみました。
すると、娘は、「なんだかみんなと違う感じ」と。だれかに言われたわけではなく、自分で感じていたようです。
子どもたちは成長とともに、他者との違いに気づくようになります。小学生になると、友達の存在がだんだんと大きくなり、友達が自分をどう見ているかという他者の視点で自分を位置づけようとするようになります。
こういう時期にどんな知識を持ち、どんな経験をするかは、その子の物事の捉え方に大きく影響していくように思います。子どもを異文化で育てた経験で感じるのは、親の教えやふるまいは非常に大事ということ、あとは異文化に触れる経験はその子を大きく成長させるということです。
日本は和を求める分、違いを意識しがち
日本は、和を大事にする文化。一致団結したときの協調性はおそらく世界一でしょう。ただ、和や融合をもとめる分、人と同じであることを求め、他者と違うことを避けようとする心理が働きやすい傾向があります。
そういう面から見たら、今後グローバル化が進み、多国籍の人と触れる機会が今以上にもっともっと増えたら、気をつけないと、自分がストレスを抱えたり、相手に偏見を持ったりしかねないと考えています。
自分が人と違う、相手が自分と違う、それを飲み込めないと、偏見や差別につながりやすくなります。学校でのいじめも同じです。「違うのが当たり前」「違っていいんだよ」と捉えられれば、それぞれの違いは味わいになります。
異文化に触れられる体験は、「お互い違っていいんだよ」という理解を深めるのに役立ちますので、たとえば外国人がオーナーのお店でテイクアウトしてみたり、ネイティブの先生がいる英語レッスンを受けてみたりというのもいいアイデアだと思います。
子どもに伝えるときは、まず自分を振り返ることも大事
またニュースなどを見ているときに、お子さんから質問をされたら、なんとなく言葉を濁すよりも、差別がある現実を伝え、話し合う機会を持つことはいいことだと思います。小学校に上がる前後、5~6歳くらいになればきっと理解できるでしょう。
あまり大きくなってしまってからだと、その子自身の物の見方が柔軟ではなくなってくるので、今回のニュースのみならず、本や映画などで機会をもらったら、そこで話してみるのもいいかもしれません。
いきなり親が一方的に説明するよりも、「それについてどう思う?」と聞いてみましょう。お子さんがその段階でどう理解しているのかがつかみやすくなります。もし偏った情報をどこかで聞いてきていたり、間違って理解していたりしたら、それを正す機会にもなります。
ただ何より大事なのは、私たち大人が自らの理解や考え方に改めて向き合うことです。親が差別や偏見のある発言や行動を取っていれば、子どもにいくら「平等」と教えても、子どもは前者から多くを学んでいきます。
この場合の差別や偏見は人種に限ったことではありません。学校でのいじめや仲間外れも含めてのことです。
普段から、親自ら、身の回りの人に優劣をつけたり、違いを批判したりするような発言をしていれば、子どもにもそういう見方が身についていってしまいます。
その点では、まずは、自分が他者をどう受け止めているか、そのあたりを見つめ直すことが大事で、それが結果的に子どもの差別や偏見の理解に影響していくのだと思います。
育児相談室「ポジカフェ」主宰&ポジ育ラボ代表
イギリス・レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。ポジ育ラボでのママ向け講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポート。2020年11月に、ママが自分の心のケアを学べる場「ポジ育クラブ」をスタート。著書に「子育て心理学のプロが教える輝くママの習慣」など。HP:https://megumi-sato.com/