早稲田大学・露木教授×伸芽会・飯田先生のスペシャル対談!「理科好きな子にするために今親がすべき4つのこと」
年長から小学5年生までの子どもを対象に、自然の中で五感を使って考える力を育むカリキュラムが話題の「早稲田こどもフィールドサイエンス教室」は早稲田大学の露木和男教授の総合監修によるプログラム。
そこで今回は、著書『9歳までの男の子の育て方』である伸芽会教育研究所所長の飯田先生と露木先生によるスペシャル対談が実現。テーマは「外遊び」「男の子」「アクティブラーニング」「理科離れ」。理科好きにさせたいママ必見です!
露木和男
早稲田大学・教育総合科学学術院教授。筑波大学附属小学校に24年間勤務し、2009年より現職。現在は早稲田こどもフィールドサイエンス教室の総合監修・指導統括も務めている。著書に『フィールドサイエンスのすすめ―自然で学ぶ、科学の好きな子に育てる』(早稲田大学出版部)など。https://waseda.fieldscience.jp/
1960年福井県生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中に伸芽会の創立者・大堀秀夫と出会い、入社。子どもの目線に寄り添い子どものやる気を引き出す人気教師として男の子の指導に定評があり、これまで3,000人以上の教え子を難関校へと導く。著書に『9歳までの男の子の育て方』(世界文化社)。本サイトのYoutubeチャンネルであるSHINGA FARMちゃんねるへレギュラー出演中の他、AERA with Kisds+、朝日新聞 DIGITALなど多くのメディアにも取り上げられるなど、幼児教育業界の第一人者として活躍中。
目次
その1 自然観察で子どものコミュニケーション能力が育つ!
自然観察を通して身につく力とはどんなことでしょうか。
露木先生_早稲田こどもフィールドサイエンス教室では、毎回テーマに沿って子どもたちをバスで自然に連れ出して自然観察を行います。その活動を通して僕が伝えたいことは、生き物への敬意と自然への感謝です。仲間と一緒にカエルの卵を触わって感触を知り、命を感じ、青虫がさなぎになるところを見たら「すごいな」「もっと知りたいな」と思う。
子どもは、何かを発見したり感動を仲間と共有することで、日常の中の不思議を再発見したり見直すことができる。それと、自然や生き物を通して“思い通りにならないこと”を知ることは、今の子にとってすごく大事だと思うんです。つまり、自然に触れて相手の生き方に共感することは、子どもたちのコミュニケーション能力の育成にもつながるんですね。
飯田先生_それは同感ですね。昔と比べて一人っ子も増え、なんでも手に入る便利な時代になりましたから、子どもだけではなく大人も我慢できない人が増えましたよね。思い通りにならないことを知る、その通りだと思います。
露木先生_あとはね、例えば害虫と呼ばれるシロアリがいるでしょう。あれも、実は体の中で木を分解できる細菌を飼っているというすごい体質の持ち主。それを知ったら、シロアリ=悪い奴とは思わなくなりませんか? 虫への差別は人への差別にも通ずると僕は思うんです。
飯田先生_相手のことを知らないと差別してしまう、というのはありますよね。私も課外授業で子どもたちと自然のある場所に出かけた際に、アリを見つけた子が「ヒアリだ、危ない!」と。耳から入った情報だけで正しい知識がないから大騒ぎになりました。今の子はアリも悪者の対象になりうるのかと思いましたね。
露木_ちなみに、アリは左側の真ん中の足から動かすってご存知でしたか? 熊谷守一さんの映画『モリのいる場所』に出ていたのですけど、面白いですよね。彼なんかは一日中アリの観察をしていられました(笑)。
飯田_今の大人の方は虫の体の構造も知らないですよね。
露木_大人が自然離れをしていますからね。一体これから日本はどうなってしまうんでしょうか。今、人間関係に悩む大人が多いのは、小さい頃に人や自然と関わる訓練ができていなかったからだと思うんです。
この世の中は、人間だけはなくいろんな植物や生物で成り立っていると知り、感じること。「虫が怖い、汚い」というのは対人関係への偏見や嫌悪感と全く同じ。それを乗り越えて相手を知ると、敬意に変わるんです。僕は、世界の分断や偏見と自然離れはどこかで共通するのではと思っています。
その2 「おっ」を作ると子ども主体の考える授業になる
お二人は日頃、子ども主体の授業をする上で意識していることはありますか?
飯田先生_例えば、幼児を対象に「物の浮き沈み」を学ぶ授業では、あれこれ説明をしないで、まず水を入れた水槽にいろんなものを落としていくんです。すると、何も言わなくても子どもたちは集まってきます。
入れる前にどうなるのか予想をしてそれが裏切られると、子どもたちは真剣に考えます。つまり、理論や定義を最初に説明するのではなく、体験や感動から入ることが大事かなと思っています。大人は最初の「おっ」と驚く場を作ってあげさえすれば子どもは自然と学んでくれるんですよね。
露木先生_本当にその通りだと思います。私がフィールドワークをする際も、あまり説明はしません。子どもから見れば私はただのおじさんかもしれませんが、面白いことをしていれば自然と近寄ってきますよね。
「おっすごい!」と子どもが思う意外な設定をするのが、主体的な授業に一番欠かせない要素なのではないでしょうか。
子どもだけではなくて、早稲田大学の授業でもそう。文系の学生を対象にした「自然学のすすめ」というオープン授業があるのですが、昨年その授業が早稲田大学ティーチングアワード総長賞に選ばれましてね。学生たちのアンケートで決まったそうで、とても嬉しかったですね。
飯田先生_今は受験科目でないと中学までしか理科を学んでいない大学生も多いですから、先生の授業でその抜けていた部分が埋められていく感覚なんでしょうね。
露木先生_僕の授業はテストがありません。何を感じて学んだかのレポートを出してもらいます。覚えようとか無理やりやらされるとつまらないし、それが今の理科離れの原因のひとつでしょう。
授業は、教材が媒介で子どもと先生との信頼関係を築くのが最大の目的だと僕は思っています。そのために、教師は子どもの世界が広がる面白い教材や体験をさせてあげないといけないですね。
その3 自然に触れてSense of Wonderを磨くことが大事
理科好きな子に育てるためには、どんなことを意識すればいいですか?
露木先生_別に遠くの山や川に行かなくても、道端だって近所の公園でもいいので、まずは遊びのために何かを観察すること。たとえば、葉っぱや松ぼっくり、木の実を何かに見立てたアートを作るのもおすすめです。
乾燥している松ぼっくりは水をかけると鱗片が閉じるという習性を利用したアート作りは、子どもたちも大興奮でしたよ。
飯田先生_面白いですね。まさに想像力も感性も刺激される体験ですね。私たちもまだまだ知らない発見がたくさんありそうです。
露木先生_あとは、虫でも小動物でも生き物を飼うのもいいですね。生き物を飼うと、応えてくれる喜びを感じ、責任感が身につきますから。
飯田先生_何かを任されるということは、子どもにとっても信頼されたという証になるので、自己肯定感が育ちますからね。
露木先生_何より大事なのは、自然に触れて“Sense of Wonder”(神秘さや不思議さに目を見張る感性)を磨くこと。そして、それを共感できる大人や仲間がいると、どんどん理科が好きになっていくと思いますよ。
飯田先生_子どもが自分で発見したり気づくためには、大人は何でも先回りして手出しせずに、じっと待つことも大事ですよね。今の若い親御さんは、自分の子しか見えていなかったり、視野が狭い方が増えている気がします。
露木先生_わが子を大事にする=願いをすべて聞き入れる、ではありませんから、待つことや我慢させることは大事です。そのためには周りを見て視野を広く持つこと。今目の前のことしか見ないと、結果的に本当に大切なことを学ぶチャンスを逃してしまいますから。
その4 夏休みの丁寧な記録と認められた体験で子どもは伸びる!
最後に、夏休みに子どもを伸ばす体験にする秘訣があれば教えて下さい。
露木先生_「植物を育てる」でも「大きな絵を描いてみる」でも、何でもいいから、夏休みにやりたいことを自分でひとつ決めて、丁寧にやってみるといいと思います。小学生だったら、その体験を記録してみること。旅行先での割り箸の袋やお土産の包装紙を取って記録していったり。そうすると、その体験が経験に変わる。それが他のことにも生きてくるんです。
飯田先生_小学校受験にとって夏休みはとても大事な時期です。花に水をやる、生き物にえさをやる、カーテンの開け閉め…。年長の夏に男の子で伸びたなと感じる子は、何かを任されて認められた経験をした子が多いです。
あとは、旅行に行くなら、道中ずっとゲームをしているのではなく、事前に「こんなところに行くんだよ」と親が情報を教えてあげると子どもは興味を持ちます。旅行先で「何がしたい?やってみたい?」と聞いてみてあげてください。子どもの記憶に残る経験は、その問いかけをした経験だと思っています。
露木先生_それと、人に感謝、命に感謝。共に生きている自然に感謝することも忘れないでほしいですね。この世に生まれてまだ5年か6年。わが子は、生まれてきてくれて、生きているだけでありがたい存在です。
たえず何かに追いたてられ、比べられて、期待されて…今の子は本当に大変ですよ。お母さんたちには、焦らずゆったりとした気持ちの中で生活することが、どれだけ子どもにいい影響を与えるか、一度考えてみてほしいなと思います。
Photo:Kenichi Sasaki