【後編】想像力を豊かにし、自立と自主性を育てるシュタイナー教育とは? 「シュタイナー学校や授業から垣間見る教育法」
前回はシュタイナーの考えから、おもに教育方法の基本となる部分についてみてきました。”後編”は実際の授業風景をご紹介し、参考点を探していきたいと思います。
このシュタイナー学校では前編でお話した「人智学」が取り入れられ、現在のところ世界で約1,000校、そのうちアメリカには160校があります。そして、学校には下記のような「4つの基盤」となるものが存在しています。
1、学校はあらゆる子どもたちに対して開かれていること。
2、男女共学であること。
3、12年の一貫教育であること。
4、子どもたちと直接関わる教師たちが学校経営の中心であり、行政や財界からの影響は最小限に抑えること。
目次
シュタイナー学校における実際の授業風景
今回は「1年生の授業」について解説していこうと思います。
年間を通し「メインレッスン(エポック授業)」と呼ばれる、国語・算数・理科・社会の4教科が3週間ごとに交代。一つの教科を集中的に、朝の1番頭が働く時間帯に勉強して行きます。そして、どの授業にも教科書がなく自分たちでノートを作り上げていきます。
算数は、1〜100までの数字・偶数・奇数・足し算から割り算までの概念を学びます。そこでは、手を叩く・歩く・ジャンプするなど、動作を通して一緒に覚えていきます。
英語の読み書きは、母音と子音、そして大文字を学びます。大きなスケッチブックに三原色を塗り、それをノートのラインのように使って、大きく文字を書いていきます。見開きの反対側には、そのアルファベットから始まる絵を描きます。
このように算数や英語の授業でも、体や音を使い感覚と繋げていくことで、静かに座っていることが難しい子どもたちの関心を惹きつけていきます。感覚とリンクさせながら行うことで覚えやすくなり、気がすむまで一通り動いたあとは集中して一定時間座っていられるということもあるのです。
その他の教科は時間割で割り振られ、フランス語とドイツ語の2つが言語として採用されています。
●Form Drawing
直線、曲線などを使って絵を描きます。これは、算数や国語の一面も。
●Hand work & Painting(図工・美術)
蜜蝋クレヨンや天然素材でできた水彩絵の具を使います。「にじみ絵」などを行い、色の変化を楽しみます。
●Music(音楽)
ギター演奏の速さに合わせ、クラス中を歩き回ります。音と動きをリンクさせ、身体で音を感じます。リトミックに近いです。
●オイリュトミー
音楽や詩に合わせて身体を動かしたり、みんなでサークルになり、運動感覚・責任感・協調性を養います。
●Movement(ムーブメント)
体を動かすことを楽しむ授業。
●Gardening(ガーデニング)
「植物を植えて育てる」という授業。日本でいう生活の授業に近い感覚です。
その他にも一年を通し、父の日など季節行事でのときは「ココナッツオイルのシェービングクリーム」などのプレゼント作りも。さらに学年を重ねると「人間と動物」という独自の教科もあります。
クラスを構成する環境
生徒は18人に対してメインの先生1人、アシスタントの先生が1人。先生に向かいカタカナの”コの字型”で机を並べます。普段から先生はとても静かに話し、静かにしていないと聞き取れないぐらいの大きさです。大きな声を張り上げるよりも、子どもたちが聞き取ろうとして静かになるという効果があるようです。
学校内の廊下や教室の壁紙は、心が落ち着くように”淡いピンク”を基調とした柔らかい色で塗られており、シュタイナー教育では、自然との関わりや自然素材を大切にしているため、木や自然素材で作られたウールやフェルトの人形も並びます。おもちゃも木や紙、木の実、羊毛やシルク、綿といったものが使われています。
「自主・自立を促す」授業スタイル【その1】 イントロダクション
メインレッスン開始前「イントロダクション」と呼ばれる時間があります。
1、”top、hit、pat”といったような一年生用の三文字英単語を出し、みんなにいくつか読んでもらいます。
2、今日、ここに来るまでに何を見た? 今朝見たものを質問。
3、サークルになり、歌や手遊びをします。リズム感や音楽に合わせてすることを学びます。
4、先生がお題を出し、その音が入った言葉(例えば、「sh」だったら、shake、sheep、shadowなど)を答え席に座り、全ての子どもたちが着席できるまで続けます。
「自主・自立を促す」授業スタイル【その2】自分たちで解決することを学ぶ
イントロダクション後、先生がハミングするかのように優しい声で歌い、これが授業の切り替えとなります。固定の時間にチャイムが鳴らないので、先生が時間をある程度管理しバランスをとります。
メインレッスンは場所が決まっておらず、各々が座りたい場所に机と椅子を置きます。とはいえ、仲良し同士くっつくこともなくあくまで個々に座る印象です。子どもたちは、先生が歌いながら注目するように言うと”必ず注目”し、それ以外は個々で動きます。
クラスの数人が”一つ足の椅子”に座っていました。これはじっと座っていられない子ども用に考えられたもので、座っていないと椅子が倒れてしまう仕組みになっており、このような小さな工夫をこらし、さりげなく子どもの自主・自立を促していきます。
また、子どもたちが授業中や休み時間などに「いさかいやちょっとした喧嘩」をすると、先生は廊下に当事者を出し、話し合うように言います。そして、必要があればアシスタントの先生が介入し、大事なことは自分たちで出来るだけ解決していくことを学ぶのです。休み時間の外遊びでは、大きな木が茂る下に木の遊具があり、自分たちで創意工夫し遊びを学びに変えていきます。
このように自主・自立を育て、自然との関わりを大事にしながら想像力豊かな子どもに教育していくシュタイナー教育。日本ではまだ学校数も少なく、この教育をベースとしたお家のなかで心がけられることを何点かあげてみたいと思います。
1、7歳までは自由に遊べる時間を十分にとり、邪魔をせず観察することを心がけましょう。
2、子どもが想像力を養えるような本などやシンプルなおもちゃを選んであげるとよいでしょう。テレビゲームやテレビなどは影響が強すぎることもあるのでほどほどに。映像がすべてを補いすぎたり、キャラクターなどのイメージ固定は、想像力を制限してしまう能性があります。
3、子どもに本以外の物語も聞かせてあげましょう。親が作ったお話などはそれだけで、親が創造的なことをしてくれたとうれしく感じます。そして、何よりお母さんの声は『世界で1番安心できる音』です。
4、自然とたくさん関わりましょう。自然のなかに出向く以外にも、可能なら食べる物や身に着けるものなども天然素材だと、なおベストです。これによって子どもの感覚が喜び、育まれていきます。
5、子どもが模倣できるように家事などの仕事も見せましょう。普段、大人がしていることを見せることは、自立を促す一つの大事なポイントになります。
今回、実際の授業を見てきましたがいかがだったでしょうか。改めて見てみると、シュタイナー教育で実践されていることや心がけは、ごく当たり前のことも多いかと思います。しかし、この当たり前に思える心がけを積み重ねていくことで、子どもたちは大きく育っていくのです。
植物を育てるようにゆっくりと時間をかけて楽しみ、焦らず、急がず、たくさん愛情をかけて見守る。水をあげ忘れても、あげすぎても上手に育ちません。子どもたちが、自分らしい花を咲かせられるよう、参考の一つにしていただければ幸いです。
世界35カ国に在住の200名以上のリサーチャー・ライターのネットワークをもち(2017年12月時点)、企業の海外での市場調査やプロモーションをサポートしている。