非認知能力アップに効果的?ドイツの「運動×算数」をテーマにした「Denksport」とは?
ここ、ドイツでは理論的思考と非認知能力を培う一つの手段として、教育プログラム『Denksport(デンクスポーツ)』が注目されています。デンクスポーツとは、「denken=考える・頭を使う」という意味と「sport=運動」を掛け合わせたネーミングです。
このプログラムは、体を動かし、遊びながら算数能力を伸ばすことを目的にドイツのグーテンベルグ大学と各自治体が開発しました。
ゲームやテレビで運動不足気味になっている現代っ子の小学生に体を動かしながら遊び感覚でどう楽しく学んでもらうのか。そのユニークなプログラムの内容をいくつか、ご紹介します。
一つ目はデジタル機能と運動を掛け合わせた「ジオ・キャッシュによる宝探し」。スタッフが事前に隠したものを探すのですが、個人で探すのではなく、子どもたちがチームを作って探します。
ゲームやインターネットなどの普及で人とのコミュニケーションの場が減っているいるドイツの子どもたち。デジタル機能をうまく使いつつ、ほかの子どもたちと話し合いながら、歩き回って宝物を探す体験は、楽しく体を動かしながら色々な仲間とコミュニケーションを図りながら学べるという一石二鳥のプログラムです。
二つ目は、「クロンク」と呼ばれる遊びです。
チーム分けしたあと、子どもたちがそれぞれ担当するキャラクター(小人やトロル)となって異なる動きをしながら、相手チームと対戦します。相手チームに勝つためには、チームワークが必要です。各チームが話し合い、うまく戦略を練り、それをわかりやすく各チームメンバーに伝えなければなりません。
キャラクターに扮して、体を動かしながら、理論的にチームメンバーに作戦を伝えるこの遊びは、コミュニケーション能力のほか戦略的思考や集中力といった、さまざまな非認知能力を引き出すきっかけにもなっています。
三つ目は、「紙で作るサッカーボール」。六角形の紙に好きな色を塗ったあと、つなげてボールを作るのですが、それだけでは終わりません。サッカーボールは何面体なのか、辺の数や頂点の数、そして六角形をどのように組み合わせれば球の形になるのか、体験を通して学ぶことができます。
また、クラスメイトの前で、どうやって作ったのか、何が大変だったのかなど、やってみた感想を発表させます。男女ともに、サッカーボールの工作に興味を持ってもらえるよう、工作の前にみんなで一緒にサッカーの試合を観に行くという工夫なども施されています。
体を動かすアクティビティのほかにも「Denksport」が工夫していることがあります。この団体が使用する算数のプリントは計算用のドリルではありません。「Knobelaufgaben(日本語でなぞなぞという意味)」と呼ばれる、数字感覚を培うゲームとなっています。
例えば、マッチ棒の絵がたくさん書いてあり、一本だけ抜いて指定されている形を作るにはどうしたらいいのかなど、論理的思考や規則性を見つけるパズルのような問題が含まれています。さらに、これをグループでリレーのようにして、解かせたりします。
日本では算数のプリントというと、一人でじっと座って数式を何度も解く練習をするのかと想像しがちですが、この団体では、あくまでも思考能力を伸ばすとともに、人と接する機会を作ることにフォーカスを置いています。
プログラムの全体を俯瞰してみると、さまざまな算数感覚を伸ばすアクティビティのなかに、大きく二つの要素がさりげなく盛り込まれています。それは、①発表(プレゼンテーション能力)と②複数の相手と接する機会(コミュニケーション力)です。その理由をドイツ在住の筆者の視点から考えてみると、ドイツならではの社会的背景もいくつか見えてきます。
まず、ドイツの学校では、わからないところは質問し、自分の意見を共有したりする「プレゼンテーション能力」が成績評価の一つに入っています。つまり、いくらテストの点が良くても、クラス全体に説明したり、意見を伝えたりせず、静かに座っているだけでは総合的に評価されません。
この「Denksport」プログラムのように、みんなの前で話したり、情報を共有する機会があると、理論的に、相手にわかりやすく伝える意識が培われていきます。
次に、そもそもドイツ人の国民性として、用があるとき以外は人と接しない、特に知らない人を避ける、などの特徴があるように筆者は感じています。
まだ社会経験の浅い子どもたちは、そもそも人との接し方がわからないうえに、上記のような社会的背景から、複雑な人間関係や問題を実際に話し合って解決策を模索する方法を体験する機会が著しく少ないのが現実です。だからこそ、「Denksport」のような活動ができたのではないでしょうか。
昨今、ドイツを含めてさまざまな国で国際化が加速しており、難民のほか、海外からの移民も急増し、一つの国にさまざまな国籍の人々が暮らすのが当たり前になりつつあります。
このような多様性が進む環境のなかでは、まさに、理論的に相手にわかりやすく伝えられるコミュニケーション能力や人間性を含む非認知能力が問われるのではないでしょうか。
日本でも子どもたちはドイツの子どもたち同様に、ゲーム・やテレビ、携帯電話やインターネットに没頭して体を動かさず、人と実際に会って会話をしなくても過ごせる環境が簡単に手に入る環境にあります。
今後、さらに国際化していく日本の社会にも有効だと思われるこのプログラム、是非、取り入れてみてはいかがでしょうか。
【参考URL】
https://www.youtube.com/watch?v=-q-AMhgZvo4
https://www.denksport.uni-mainz.de/
https://www.junior-campus-mainz.de/denksport/
https://www.denksport.uni-mainz.de/neuigkeiten/
世界35か国在住の250名以上の女性リサーチャー・ライターのネットワーク(2019年4月時点)。
企業の海外におけるマーケティング活動(市場調査やプロモーション)をサポートしている。